去年から1ヶ月に1回のペースで熊野灘の沖合底引き網漁船に乗せてもらい生物採集を行っています。
これは展示生物の入手はもちろんですが、熊野灘の生物調査としての意味もあるので、種名の分からない生きものは研究者の力をお借りしながら種類を少しずつ明らかにしています。
そんな中で力を入れているひとつがニハイチュウの調査。
ニハイチュウとは、タコやコウイカ類の腎嚢に寄生する体長数百μm〜数mmの小さな生物ですが、多細胞生物でありながら体を構成する細胞は50個以下、器官の分化もなく体のつくりはとてもシンプル。
タコやコウイカ類の腎嚢中で生活していますが(尿を餌にしています)特に悪さをするわけでもないようで、寄生というよりも共生・共存関係にあるようです。
ちなみに食べても人間に害は与えません。
そのニハイチュウをサンプリングしに大阪大学の先生が毎月来館しているのです。
興味深いことに、ニハイチュウは種特異性を持つので寄主(タコ・コウイカ類)ごとに異なる種類が見つかるようです。
実は先日の沖合底引き網で生きたままツノモチダコを採集しました。
このツノモチダコには4種類のニハイチュウが見つかっています(全て未記載種)
タコは予備水槽で様子を見ていましたが、残念ながら死亡してしまったので(やはり捕獲時の状態があまり良くなかったようです)解剖してみることにしました。
実は、私はツノモチダコのニハイチュウ全種を同時に生きた状態で観察したことがありません。
果たしてこのタコの腎臓でニハイチュウはフルコンプしているのか?(笑)
まだ若い小型のツノモチダコでした。それでは解剖させていただきます。
取り出した腎臓がこちら(腎臓は腎嚢という袋に包まれています)
白くモヤモヤとしたものがニハイチュウ。
あまりのニハイチュウの数に興奮MAX!です。
肉眼でも予想できましたが、結果…4種類全部を観察することができました。
A種とB種は腎臓の隙間に頭(先端)を突っ込んで生活しています。
C種 先端が吸盤のように広がっていてこれで腎臓の表面に付着します。
D種 これは同種の先端どうしがくっついて群体を形成します。
この群体はシート状の構造となって腎臓の上皮に接着するようです。
ニハイチュウは頭(先端)の形の違いによって4つの型が知られていますが、限られたスペースで棲み分けをするため、同じタコから見つかるニハイチュウの型はそれぞれ異なるそうです(ツノモチダコなら4つの型がすべて見つかることになります)
つまり、キャラが被らないってことでしょうか?(笑)
【飼育研究部 森滝丈也】