熊野灘の水深約300mの深海に沈んだ木の中から見つかった真っ白なヒラムシ。和名はシロムクペリケリス。発見のきっかけは、鳥羽水族館の飼育スタッフによるブログ「飼育日記」です。
まるで雪のような白さと、和装の白無垢を思わせるたたずまいが特徴です。
本種は2024年、新種として正式に記載され、深海性のペリケリス類としては世界初の報告となりました。
普段は沈木の中にひっそりと隠れているため観察は難しいのですが、ここ数日は水槽の中で頻繁に姿を見せています。
その理由は「産卵」。
水槽のガラス面に産みつけられた卵のそばに、シロムクペリケリスが寄り添うように留まっているのです。ヒラムシの中には、産卵後にしばらく卵を保護するような行動を見せる種がいますが、シロムクペリケリスもそうなのでしょうか?
ヒラムシは「扁形動物」と呼ばれるグループに属し、左右相称動物の中ではきわめて原始的な構造をもつとされていますが、こんな風に“子を守る”かのようなふるまいを目にすると、その行動に不思議な愛おしさを感じずにはいられません。
卵は卵割しているようで、どうやら発生が進んでいる様子です。
深海という極限環境でひっそりと生きる小さな命。その白い姿には、知られざる深海の物語が秘められています。
【飼育研究部 森滝丈也】