オウムガイの祖先は遥か昔、古生代カンブリア紀の終わりごろ(約5億1000万年前)に出現しました。その姿は今のオウムガイとは異なり、まっすぐに伸びた殻と10本の腕、発達した目を持っていたと推測されています。
どうしてそんな昔の姿がわかるのでしょうか?
殻などの硬い部位は化石として残るので、それを見ればわかります。一方、化石として残らない軟体部については、現生のオウムガイの胚発生の様子や遺伝子を調べることで、ある程度想像できるのです。この研究に鳥羽水族館も協力しています。
例えば、現生のオウムガイの腕はオスが66本、メスが90本前後。ですが、孵化前の胚にあるのは5対の突起(原基)だけ。この原基が、発生の過程で頭部を覆う頭巾やたくさんの腕へと分化していくことが明らかになりました。これがオウムガイの祖先の腕は5対だったと推測される理由です。
また、現在のオウムガイの目はレンズを持たない「ピンホール眼」構造ですが、胚の遺伝子を調べた結果、レンズを形成する遺伝子自体は存在するものの、そのスイッチが入らなくなった(発現しない)ために、レンズが消失した可能性が示唆されました。このことからオウムガイの祖先は元々、発達した「レンズ眼」を持っていたものの、進化の過程でレンズが消失したと推測されたのです。
長い歴史の中で、実は各器官はバージョンアップ(進化)していた、というお話でした。
【飼育研究部 森滝丈也】